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東京地方裁判所 昭和43年(借チ)1096号 決定

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔決定理由〕(申立の要旨)

申立人は、相手方らから、東京都目黒区鷹番三丁目九九番一宅地1,159.17平方米のうち249.58平方米(以下本件土地という。)を非堅固建物所有の目的で賃借し、同地上に別紙目録(一)記載の建物(以下本件建物という。)を所有しているところ、これに別紙図面の増改築を施し、同目録(二)記載の建物としたいが、賃貸人らの承諾が得られないので、右承諾に代わる許可の裁判を求める。

(決定理由)

1 本件の資料によれば、保科治朗は、鈴木松弘から、昭和六年七月一日その所有にかかる本件土地を木造建物所有の目的、期間二〇年の約で賃借し、同地上に本件建物を所有したこと、本件建物は、本件土地賃借権と共に、昭和一一年保科治朗から佐藤征捷に、昭和二五年一〇月佐藤征捷から申立人に譲渡され、右借地権譲渡につき賃貸人鈴木松弘の承諾を得たこと、本件賃貸借契約は昭和二六年七月一日法定更新され、残存期間は昭和四六年六月三〇日までであること、賃貸人鈴木松弘は昭和四二年六月四日死亡し、相手方鈴木かま(妻)、同鈴木繁光(長男)、同高野みつ子(長女)、同鈴木儀次(二男)及び同森加代(二女)が共同相続して賃貸人の地位を承継し、現在にいたつていること、本件賃貸借契約には増改築禁止の特約があり、申立人は、本件増改築についての賃貸人の承諾を求めるべく、昭和四三年一二月初め頃妻を相手方鈴木繁光方に差し向け、同妻は、右相手方の家族の者に増改築を承諾してほしい旨を告げ、持参の一〇万円を手渡したところ、家族の者から確かに伝える旨の返事を得たので、申立人としては、賃貸人の承諾が得られたものと信じ、増改築に着手したところ、賃貸人の抗議を受けたので、昭和四三年一二月一九日本件申立をしたことが認められる。右のように、申立人は、本件土地の借地権者にして同地上にある本件建物の所有者であり、本件申立をするに先立ち、賃貸人の承諾が得られないまま増改築に着手したとしても、右の事情の下においては借地人として信義に反するものではないので、本件申立は適法である。

本件の資料によれば、本件増改築は、建築法規上適法にして、土地の通常の利用上も相当であり、昭和四六年六月三〇日期間満了の際本件借地契約は更新されるものと認められるので、本件増改築許可の申立は、これを認容すべきである。

2 次に、附随の処分について考える。

本件増改築許可の裁判は、本件増改築にかぎり増改築禁止の特約を排除するものにして、申立人に本件増改築をなしうる権利を新たに付与する反面、賃貸人の土地所有権に新たな制約を加えることになる。この権利、制約の経済的価値を如何に評価すべきであるか。これが財産上の給付の問題である。右の権利は、具体的には、本件建物の耐用年数の延長、本件建物の価格の増加及び本件土地利用効率の増加となつて現われる。これら具体的変化が賃貸人の土地所有権に如何なる制約を加えるか。制約を加える場合、当事者の利益を調整する必要があるか。以下、右の具体的変化の個々について検討する。

(一) 建物の耐用年数の延長

本件のように増改築をめぐつて当事者間に紛争がある場合、借地期間満了の際、当事者合意の上契約を更新するということは考え難く、法定更新されるものと思われる。従つて、本件の場合、本件建物が主屋であるので、本件建物の朽廃は借地権の消滅事由であるとみてよい。本件増改築により本件建物の耐用年数が延長されることは明らかであり、建物の朽廃による借地権消滅時期が延びることとなる。このことは、土地所有権の制約の増大をもたらすこととなるので、当事者の利益を調整する必要がある。

(二) 建物の価格の増加

本件増改築により本件建物の価格が増加することは明らであり、この価格の増加は、将来賃貸人が更新を拒絶し、借地人から建物買取請求権を行使された場合に賃貸人の利害に影響を及ぼすが、建物の価格が増加しても、買い取る建物はその価格相応のものであるので、買格の変化自体は、賃貸人の不利益になるものではない。問題は、買取価格の増加により、賃貸人が更新拒絶を断念せざるを得なくなることがありうることである。これは、借地権が消滅すべきであるのにかかわらず、これを消滅させないことであり、賃貸人の土地所有権は大きな制約を受けることとなる。しかし、本件借地権の期間は昭和四六年六月三〇日満了することになるが、更新されるものと考えられること前記のとおりであり、従つて、買取請求権が行使されるのは少くも昭和六六年七月一日以降のことであり、果してその時に更新拒絶の意思表示がなされるかどうか、また、更新拒絶の意思表示がなされたとしても、それが正当事由に基づくものであるかどうかを現時点で予測することは不可能であるばかりでなく、本件建物がその当時存在するものかどうかすら判りえないのであるから、建物の価格の増加により賃貸人が蒙ることあるべき不利益は、考慮の外におくほかはない。

(三) 借地の利用効率の増加

本件増改築により、本件建物の床面積が拡大されるので、それだけ借地人としては本件土地を従前より効率よく利用しうることにより、この意味での借地の利用効率の増加ということは考えうる。鑑定委員会は、右の意味における借地の利用効率の増加を根拠に財産上の給付を考えている。しかし、右利用効率の増加は、借地人の資本投下によるものにして、これによる借地人の利益を賃貸人に配分せしむべき根拠はなく、また、右利用効率の増加が賃貸人に不利益を及ぼすものとも考えられないので、この点は、財産上の給付について考慮する要はない。

以上の検討からして、財産上の給付につき考慮すべき点は、本件増改築により本件建物の耐用年数が延長されるということに尽きる。これをどう評価するかは、本件増改築をなしうる権利をどう評価するか、つまり、増改築禁止の特約が一時的に排除された借地権の価格をどう評価するかということである。不動産鑑定の専門家が借地権価格を評価する場合、土地の更地価格(或は建付地価格)に対する割合を求めるのが通例のようであるが、右の割合は、借地契約の具体的内容の差異に注目することなく、借地権一般としてその割合を求めているのが実情である。しかし、同じく借地権といつても、借地人に有利なものもあれば不利なものもあり、その価格に自ら差異のあるべきは、当然のことと思われる。増改築禁止の特約のない借地権価格の土地価格に対する割合をA%とし、右特約のある借地権価格に対する割合をB%とすると、本件のように、裁判により右特約が一時的に排除された借地権価格の土地価格に対する割合(C%)は、AとBとの中間ということになる。従つて、借地人に命ずべき財産上の給付額は、C%とB%との差を土地価格に乗じたものである。AとBとの差を把握することは前記鑑定の実情からして困難ではあるが、一〇%ぐらいとみてもさほど間違つていないように思われる。本件の資料によれば、本件建物はいまだ堅牢さを保ち、朽廃の域に達するまでなお相当の年数が見込まれることが認められ、このことは、本件増改築をなしうる借地権の価格が朽廃直前に増改築した場合の増改築価格に較べて劣ることを意味し、なお、本件増改築は、既存の建物に附加するものであり、新築の場合に比し、耐用年数も短いと考えられるので、これらの事情を斟酌し、借地人たる申立人に命ずべき財産上の給付は、鑑定委員会の意見による本件土地の建付地価格3.3平方米二二万円の割合による本件土地建付地価格の二%金三三万円(千円以下切捨)を相当とする。よつて、主文のとおり決定する。

(小山俊彦)

目録

(一) 東京都目黒区鷹番三丁目九九番地所在

家屋番号六一九番

木造瓦葺平家建居宅

床面積(登記簿上)八〇、一六平方米(二四坪二合五勺)

(現況)九九、七六平方米

(二) 木造二階建居宅

床面積 一階 一〇七、二一平方米

二階 二六、四四平方米

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